1007【映画あれこれ】思わず目を背けてしまうほどの戦争のリアリティ『野火』

映画あれこれ(Movie)
この記事は約5分で読めます。

実際に体験しなければその過酷さやこの世のものとは思えないような状況は完全には理解しえないのが戦争
しかし、そんな体験は二度とこの世にもたらせてはいけません。
そんなときに、その戦争のことを視覚からもたらしてくれるのが映画作品です。

戦争を題材にした映画作品は数多くあります。
戦争の悲惨さをスクリーン越しに伝えてくれる。
思わず目を背けてしまいそうになりますが、今を生きる我々にとって大切なのは、戦争という悲惨な体験を次の世代へとしっかりと受け継ぎ、二度と戦争の悲劇をもたらさない世の中を作っていくということでしょう。

今回紹介している映画も戦争を題材にした映画であり、その名を『野火』といいます。
太平洋戦争末期のフィリピンのレイテ島が舞台となります。
レイテ島というとその名前を聞くだけでもぞっとしますね。
レイテ島の戦いが起こった島であり、おびただしい数の人々が命を失った戦いなのでした。
そんなレイテ島を舞台にしたこの映画。
おそらく、戦争映画は数あれど、これほど生々しい表現をしている映画というのも珍しいのではないかと思います。

アメリカ軍だけではなくフィリピン人からも攻撃される日本軍。
飢えと孤独の中で生き延びようとする日本兵は、レイテ島でどのようになっていくのか。
今回はこの太平洋戦争をテーマにして制作された映画『野火』について紹介していきたいと思います。

というわけで、今回のわきみちは、

【今回のわきみち】
  • 太平洋戦争末期、恐ろしい戦場となったフィリピンのレイテ島を舞台にした戦争のリアルをつたえる映画『野火』を見てみよう。

映画に関する記事です。

986【映画あれこれ】驚くほどのクオリティを誇る知られざる昭和天皇の姿『太陽』
この映画は全編を通して、一人の人間昭和天皇の終戦前後の苦悩、そして日常生活がリアルに展開されます。この映画で主演を演じたのは、イッセー尾形氏。その演技のリアルさが話題となり、海外ではかなり話題となった映画なのです。
965【映画あれこれ】あふれだすリアリティ…。これが現実とならないことを祈る…『エンド・オブ・ザ・ワールド』
今回紹介しているのはとある映画なのですが、核戦争によって世界が死滅していく状況を表した映画としては、かなり古い部類に入る映画です。元々は、1959年に映画が発表された『渚にて』という映画なのですが、それが2001年にリメイクされ『エンド・オブ・ザ・ワールド』として再度映画として公開されたものなのです。
923【映画あれこれ】ローマ法王にかかる重圧。そしてそこにある苦悩を描いた『ローマ法王の休日』
ローマ法王になるということはどういうことなのでしょうか。そんな世界中の人々が知っているけれど、実際にどうやってその立場になるのか。どんな生活をしているのか。そんなローマ法王の事実をコメディ映画として取り扱っているのが映画『ローマ法王の休日』です。
902【映画あれこれ】原爆投下からわずか8年。この出来事を風化させまいとした人々によって作られた映画『ひろしま』
原子爆弾を取り上げた作品の中でも、原爆の悲劇からわずか8年後という時代に、実際に広島での原子爆弾の様子を目の当たりにした多くの一般のエキストラの人々が参加した映画があります。その映画を『ひろしま』といいます。
881【映画あれこれ】インドネシアを震撼させた大虐殺事件を取りあげた映画『アクトオブキリング』
インドネシアは世界でも最大のイスラム教徒人口を誇る国です。それ以外の宗教の人たちには暮らしにくそう・・・。と思ってしまうかもしれませんが、インドネシア国内には、キリスト教の人も、ヒンドゥー教の人も、仏教の人もいます。そして、国の祝日にはそれらのイスラム教徒は違う宗教の特別な日も、国家の祝日として制定されるほどなのです。厳格なイスラム国家とは少し雰囲気が違いますよね。
860【映画あれこれ】インドのムンバイ同時多発テロを取り扱った映画『ホテルムンバイ』
た世界を震撼させた事件は、映画化され後世に語り継がれていく場合があるのです。今回紹介している映画もとあるテロ事件を紹介したものです。その映画とは、ホテルムンバイといい、2008年に起きたインドのムンバイ同時多発テロを取り扱った映画なのです。
839【映画あれこれ】実際の事件を取り上げたドキュメンタリー映画。まさか現代にこのようなことが…『奴隷の島、消えた人々』
今回紹介している映画は、『奴隷の島、消えた人々』。ドキッとしませんか、このタイトル。"奴隷"という言葉が印象的なこの映画のタイトル。いかに古い時代の話なのかなと思いきや、その詳細を見てみると、意外や意外。この映画は実際に2014年に発覚した韓国でのとある事件を取り扱った映画なのです。
818【映画あれこれ】もはや説明の必要のないほどの名作映画。映画と旅とがつながったのはここからかもしれない『ローマの休日』
今回紹介している映画は、日本では1954年に公開されたこの映画ですが、この映画を見て、映画の中で出てきた様々な舞台を巡りに行く!という行動に出た人々も多かったと聞きます。その映画の名前を『ローマの休日』といいます。
797【映画あれこれ】かの有名なこの人物を、一人の少女として新たな角度から映画化した『マリー・アントワネット』
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない。」このセリフを聞いたことがあるのではないでしょうか。誰のセリフだったかなあ、と思い返してみると、歴史上のとある悪女が浮かんでくる緒ではないかと思います。その人物こそが、フランス国王ルイ16世の王妃だったマリー・アントワネットです。
755【映画あれこれ】1950年代のサイゴンが舞台。10歳で奉公に出た少女の成長と人々との交流を描いた作品『青いパパイヤの香り』
今回紹介しているのは、ベトナムの大都市であるホーチミンシティがまだサイゴンと呼ばれていた1950年代のベトナムを取り扱った映画です。その映画の名前は、『青いパパイヤの香り』といいます。
734【映画あれこれ】ベトナムの古い慣習を映像化。しかし、その映像化は問題となり・・・『第三夫人と髪飾り』
ベトナムで作られた『第三夫人と髪飾り』という映画。この映画の舞台は19世紀のベトナム。一夫多妻制が残り、男児を生み育てることが女性の務めとされていた古き慣習の残る時代。その時代に翻弄される14歳の少女が主人公の映画です。
713【映画あれこれ】暗黒の時代を実際に体験した人物が演じるリアリティ『キリングフィールド』
今回紹介しているキリング・フィールドという映画は、地獄のような日々に突き進んでいっていた、当時のカンボジアの状況を表している映画なのです。その映像は非常にリアリティにあふれているのですが、そこまでのリアリティがなぜ表現できたのかというと、この映画の助演の男性が、実際にクメール・ルージュ下のカンボジアを生き抜いた人なのです。
573【映画あれこれ】同じ民族が引き裂かれた悲劇の戦争、朝鮮戦争。ある兄弟の姿を通して戦争の現実を物語る『ブラザーフッド』
映画『ブラザーフッド』は、朝鮮戦争に翻弄されたある兄弟を取り扱った映画なのですが、ストーリーとしてはフィクションであり、実際には起こりえないだろうという点もあったりするため、賛否分かれる映画です。ただ、戦争が同じ民族、家族、恋人たちを引き裂き、多くの人々の心の中に傷を残した戦争の雰囲気は十分に伝えてくれる作品だと思います。
555【映画あれこれ】ベトナム戦争時、アメリカはこの国の中でどのような立場だったのか『グッドモーニング、ベトナム』
ベトナム戦争真っただ中のサイゴン(現在のホーチミンシティ)でアメリカ兵のためにラジオ放送を行っていたある空軍兵且つラジオDJの視点から見たベトナムを描いた作品『グッドモーニング、ベトナム』です。このストーリーは実在の人物の体験に基づいて描かれており、ベトナム戦争のまた違った一面を見ることができる映画なのです。
537【映画あれこれ】ポル・ポト政権下のカンボジアでの実話。この国を襲った歴史の一端が見える『地雷を踏んだらサヨウナラ』
ポル・ポト率いるクメール・ルージュによって激しい内戦状態に陥っていた1970年代のカンボジア。そのような状況下にあったカンボジアに単身乗り込み、カンボジアの実情を伝え続けたのが一ノ瀬泰造氏なのです。そんな一ノ瀬泰造氏の半生を映画化したものが、今回紹介している、『地雷を踏んだらサヨウナラ』です。
522【映画あれこれ】今の時代ではありえないかもしれないが、人が自分の力で生きるためにはありだったのか『フリークス』
今回ふと目に留まったとある白黒映画。その映画なのですが、邦題では『怪物園』、原題では『フリークス』といい、サムネイル画像には下半身がなく、手だけで体を支える人物の画像が。あまりにも強烈なその画像が気になり、この映画を閲覧してみましたが・・・
507【映画あれこれ】イギリス統治時代のインドが舞台。この時代の女性のおかれた立場がよくわかる伝説的な女優『マドビ・ムカージ』
オンデマンドビデオサービスの中では、これまでに全く知らなかったような動画も目に入ります。たくさんのサムネイルを見ていると、その中には目に留まるものもあったりするのです。オンデマンドビデオサービスで目に留まったある映画作品と、そこから知ったとあるインド人女優であるマドビ・ムカージについて書いていきたいと思います。

映画『野火』

野火とは、太平洋戦争のさなか、フィリピンでの戦争の中で一人の軍人が極限状態の中で何とかして生き抜こうと、倫理的な問題も提示しながら表現した映画作品です。
かつて1959年にも映像化したことがあるそうなのですが、今回書いているのは2015年に映画化された野火についてです。

舞台は太平洋末期。
すでに日本の劣勢が明らかになった中で、各地で玉砕が続く戦線の中で、フィリピンのレイテ島が舞台となります。
フィリピンのレイテ島というと、レイテ島の戦いで日本軍が壊滅的な被害を受けた場所でもあります。
それだけでも、どれだけ悲惨なことがこの場所で起こるのかがなんとなく予想できますよね。
物語の主人公である軍人の田村は、そんなフィリピン戦線の中で結核を患ったことによって所属していた部隊を追われ、なおかつ野戦病院からも入院を拒否された結果、病と飢えに苦しみながらフィリピンの山野へとさまよい続けるところから始まります。

部隊に戻ることができずジャングルをさまよい続ける田村ですが、悪化する病状に加え、食糧が底をつき、状況は最悪なものとなります。
そんな最中、ジャングルの中で見つけた教会の中で、ただマッチが欲しかっただけであったものの、銃口を向けた田村を怯えたカップルの女を田村は撃ち殺します。
そして、その協会で塩が入った袋を見つけ、それを持ち出すことになります。

その後、別の兵士と出会うことになった田村は、彼らから舞台に対して撤退命令が出ており、レイテ島西岸のパロンポンへの集合が指示されていることを聞きます。
塩をもっていることでその兵士らとと共に行動することになった田村。
彼らはパロンポンへ向けて厳しい道のりを歩いていくことになります。
しかし、途中で大勢の兵士がやられている場所に行きつきます。
おそらくこの場所では敵が兵士たちを待ち構えています。
そうではあったとしても、この場所を進まなければパロンポンへは行きつくことはできません。
彼らは夜になったら行動を開始する作戦を立てます。
そして、周囲には同じように考えていた兵士たちが多数隠れていたのです。

夜になり行動を開始しますが、そんな浅はかな考えは的にも見抜かれていました。
敵からの一斉射撃によって一帯は地獄絵図となります。
田村はかろうじてこの攻撃から逃れ生き残ることができますが、周りには誰も生き残っている者はいません。

再び田村は、無数の死体が連なる道を歩き続けます。
そこで、以前野戦病院近くで出会ったことがあった兵士と落ち合います。
その兵士は、猿の干し肉だという謎の肉をもっていました。
田村にもその肉を食べさせます。
しかし、猿の肉だといっていた肉は、実は人間の肉なのでした。
そこで行われるのは生きるか死ぬかの争いと、極限状態の人間が食うか食われるかという、倫理的タブーな状況が繰り広げられる光景でした。

物語の最後、敵兵にとらえられ、現地の病院に収容されたことで一命をとりとめた田村。
戦後日本に戻った田村は、食事をする姿に狂気の様子を見ます。
そして田村が見つめる窓の外では、かつてジャングルの森や草地が燃えていたような野火が燃え上がっているのでした。

いかがだったでしょうか。
戦争というのは人間が人間ではなくなるような悲惨な状況を生み出します。
この映画ではそういった極限状態の中で、人間がどのようになっていくのかというのを生々しく表現した映画でした。
戦争は人を人ではなくしてしまう。
この映画が伝えたいものは、そういうメッセージを強く画面から伝えてくる内容でした。