201【インドネシア紀行】じわじわと自分たちの町が消えていく恐怖。そしてそれはまだ終結していない『シドアルジョ泥火山』

インドネシア(Indonesia)
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下の地図を見てください。

こちらは、インドネシアのジャワ島の東部にあるシドアルジョというところなのですが、黄色で塗られた道路が見えるかと思います。
この黄色の道路のうち、大きく左側に迂回している道路は高速道路なのですが、なぜこの道路はこのように大きく迂回していると思いますか?
本来であれば、

このように、赤のラインで高速道路を造れば最もスムーズな道路になるはずなのです。
しかし、よく見ると、この赤のラインで道路を造ろうとした形跡はあるのです。
では、このようにならなかった理由は何なのでしょうか

実はこのシドアルジョでは、2006年に、世界的にも見られないような、人為的なことがきっかけで発生したともされている大規模な自然災害に巻き込まれてしまった地域なのです。

というわけで、今回のわきみちは、

【今回のわきみち】
  • じわじわと町が消えていく恐怖。そして、この恐怖はまだ20年以上続く・・・

インドネシアの日常的な自然災害、バンジールについての記事です。

039 【インドネシア紀行】インドネシアの日常風景 雨が降るとバンジール
紹介したいことがありすぎて困るインドネシア。記念すべき第一回は、思いっきりわきみちを行きまくって、行きついた先はバンジールでした。

シドアルジョ

シドアルジョは、インドネシアのジャワ島の東部にある県です。
インドネシア第二の都市スラバヤのすぐ南にあるため、スラバヤで働く人々や、郊外の工場地帯などが立ち並ぶ都市です。

シドアルジョを襲った2006年の事件

2006年5月、シドアルジョ県の南部にあった天然ガスの採掘場にて、現場から大量の水蒸気が吹き上がり、それと共に、高温の泥と有毒ガスが噴出を始めました

これがシドアルジョの泥火山、通称ルーシーなのです。
原因としては諸説あるようなのですが、天然ガスの採掘会社が誤った層を採掘してしまった説や、この地域をその時に襲った地震が原因である説など、意見は分かれる状態になっているようです。
大量の泥が絶え間なく噴出し、最大で18万立方メートル/日もの泥が噴出し続けており、2020年の現在になっても、まだ噴出は止まっておらず、専門家の予測ではまだ15年以上この状態が続くのではないかと言われています。

この泥火山の被害は甚大であり、この泥の層の下には15もの村が沈んでいるのです。
そして、この災害によって75,000人以上の人々が住む場所を追われたのです。
この災害による直接的な被害者はないのですが、泥の層によって高速道路や一般道も被害にあい、石油のパイプラインが泥の圧力によって爆発する事故が起こった際に、13人の作業員などが死亡しています。

現在はこの噴出し続ける泥の流出を防ぐために、周辺は堤防が築かれていますが、噴出の勢いが強く、堤防の構築と決壊、たまった貯水の排出などのために、大規模な土木工事によって大きな被害が周辺に広がらないように日夜対策が行われています。

採掘会社や国などから、住まいを奪われた人々への補償も行われていますが、実際にこの場を訪れる観光客に対して、ガイドをするなどして生計を立てている人々も現れてきています。

シドアルジョの泥火山を上空から見てみよう

下の地図が、現在のシドアルジョの泥火山エリアとなります。



こちらを上空写真で見てみましょう。

どうでしょうか。
一面に泥が広がっているのがよくわかりますね。
中央の緑字で書かれた部分が噴出ポイントとなります。

この泥の噴出によって、本来ここを走っていた高速道路も被害を受けました。
この災害によって、東ジャワの南北の交通が遮断されてしまったため、当時は相当な影響があったとのことなのです。

こちらは現在よりもかなり前の写真になるのですが、まだこの泥火山地帯を通る高速道路の姿がうっすらと見えていますね。
そして、これらを解決するために、泥火山で影響を受けた地帯の周囲は全て堤防で囲まれ、西側に大きく迂回した高速道路が建設されたのです。

シドアルジョの泥火山に行ってみた

それでは、シドアルジョの泥火山に行ってみました。

この前に見える灰色の部分が全て泥です。

こちらに足を踏み入れると沈んでしまうため、踏み込んではいけないポイントです。

こちらの泥火山からの噴出物には、硫黄など有害な物質も含まれています。
そのため、この一帯すべては硫黄のにおいで充満しています。
実際、帰宅した後の衣類にはここの臭いが付着し、数日はとれませんでした。

この周辺で泥火山を観察していると、スクーターにまたがった現地の方々らしき人たちに声をかけられ、観光ガイドをしてもらえることになりました。

自分たちのように、この地に訪れる人々に対して観光をしたり、泥火山の災害を取り上げたドキュメンタリーDVDを販売するなどして生計を立てているのだそうです。

噴出ポイントを見に

ガイドたちのスクーター後部座席にまたがり、別のポイントへ移動することになりました。

噴出ポイント間近までは、有毒なガスが噴出していることと、泥に沈み込んでしまうため近づくことはできません。

このポイントはある程度泥も固まってきており、進入することができました。

踏み込めるほどの堅さになってくると、この場所のように泥に亀裂が入ったような状態になってくるのだそうです。

遠くで水蒸気が吹き上がっている様子が見えますが、あの場所が噴出ポイントです。
いまだにその影響が全く衰えていないことが良くわかります。

別のポイントに移動してきました。

このあたりはまだ木々が残っていたのですが、数年たつとこの場所もどのようになるのかはわかりません。

電柱のようなものが倒れ、泥に埋まりつつありました。
別の観光客の物か、泥に落書きがしてあります。

遠くにペナングンガン山があります。
やはりこのあたりも火山地帯なのでしょう。
噴出するガスも、その影響もあってのことなのでしょうか。

水が溜まっているポイントも広範囲に広がっています。
雨水がたまっているのだそうです。

元々建っていた鉄塔なのでしょうか。
様々なものが徐々に沈んでいくのが泥火山なのです。
この下にある村々も、このようにして少しずつ浸食されていったのです。

これらの溜まった雨水は、パイプを用いて、泥火山の堤防外にある川に排出され続けています。

こちらは堤防の上をスクーターで走っているところです。
右側が泥火山の地帯の、雨水がたまっているところであり、左側にはこの写真では見えにくいですが一般道が走っています。

現在はこのぐらいの高さになっていますが、まだまだ堤防は積み上げていかなければいけないのでしょう。

左側の一般道が見えてきました。
鉄道も走っています。
堤防はこちらに被害が及ばないようにするための生命線なのです。

水の排出を行うパイプラインが見えてきました。
まだまだそこら中で重機を用いた工事が現在進行で行われていました。

いかがだったでしょうか。
人々の町が立ち並んでいた中で起きた大規模な自然災害。
地震や津波、噴火などのように一瞬で町が消えるのではなく、長い年月をかけて、けっしてそれは人類の手には止められず、じわじわと自分たちの町が浸食されていく。
それを見ている人々の気持ちはいかほどだったのでしょうか。
この地に住んでいた人々が、自分たちの故郷に戻ることはもう二度とありません。
しかし、一日も早くこの災害によって被害を被った人々が、安心して暮らせるようになってほしいと願うばかりです。