お城を守るための備えとしていろいろなものがありますが、その中でも最も広範囲かつ重要な設備が堀ではないでしょうか。
城の周囲を取り囲む堀は、敵の侵入を阻むだけではなく、城という建造物が外界とは異なる特別なものであるという権威を表すものでもあることでしょう。
ところが、いろいろな城を見に行ってみると堀にいもいろいろあることがわかると思います。
なみなみと水をはった水堀は、いかにも敵が侵入しにくそうなイメージがありますよね。
そして、水がひかれていない空堀は、一見すると防御として大丈夫なのか?というイメージがありますが、味方側の機動力も十分に発揮できることで防御力が高そうです。
では、実際のところ、水堀と空堀ではどちらがより優れているのでしょうか?
今回はこの2種類の堀のどちらがより軍事的に優れているのかを調べてみました。
というわけで、今回のわきみちは、
堀とは
城を取り囲む堀は、城郭では重要かつ最も基本的な防御のための設備です。
元々は城の周囲を掘り、その掘った土で土塁を築くことによって、城に侵入するための高さを造り出し、防御施設としていました。
時代が進むにつれて、石垣が設けられるようになっていき、堀を造成する技術も格段に向上していき、戦国時代後半頃になるとそこに水をひき、なみなみとした水を張ることも可能になっていきました。
そんな堀ですが、堀を掘ってそのままの状態で利用した空堀と、堀内に水を引き込んだ水堀とがあります。
水堀と空堀

戦国時代に数多くあった山城では、そのほとんどが空堀でした。
山城の場合、斜面の傾斜に沿って堀が造られたりという場合が多かった他こともあり、水が引き込まれることはほとんどなく、敵の侵入を防ぐためには、どれほどの深さがあるかということが重視されていました。
一度堀に足を踏み入れてしまうと、迅速に上まで登ることは非常に困難です。
そうこうしているうちに、堀の上から的に攻撃されてしまえば一網打尽にされてしまいます。

ところが戦国時代後半になると、戦いの方法として刀ややりの戦いい加えて鉄砲が用いられるようになります。
鉄砲を持った敵を防ぐために重要なことは深さではなく堀の幅でした。
十分な幅があることで鉄砲隊の攻撃の精度を下げ、城としての防御力を高めることができます。
そのため、このあたりの時代になると、直接進入を防ぐための深さと、鉄砲を防ぐ幅の両方が求められる造りとなっていきました。
また、戦国時代も後半になるにつれて、平城や館が多くつくられるようになります。
その際には周囲の堀は水堀が設けられることが多くなりました。
なお、水堀が増えた理由は、土地の造成の際に湧き出してきた湧水処理のためや、築城後に人が場内で生活をするようになると発生する排水処理のためということもあったようです。
堀の断面の種類
堀の断面にも種類があり、堀の底の形状によってその種類が分かれています。
・箱掘:堀底が平らになっている。
・薬研(やげん)堀:堀底がV字になっている。
・片薬研(かたやげん)堀:薬研堀の片側の傾斜を緩くして堀幅を広くしている。
・毛抜掘:堀底がU字になっている。
この中で山城に設けられた堀の種類には、薬研堀や方薬研堀が用いられ、十分な深さを確保するようにしていました。
また、近世に建築された広大な城郭の水堀や空堀には箱掘が用いられ、十分な幅が確保されるようになっていました。
このようにそれぞれの築城された場所の特徴や、目的に応じて堀は造られていました。
実際、どっちが優れていたの?
では、実際のところ水堀と空堀で、軍事的にはどちらが優れていたのでしょうか。
堀に水をはることによって、進入が困難になるようなイメージはあるのですが、実は防御面を考えると圧倒的に空堀の方が優秀な堀だったのだそうです。
十分な深さのある堀の場合、空堀であれば飛び降りることはできません。
堀の底に降りることができたとしても、周りに遮蔽物がなく、相手方からは丸見えになってしまうので、四方八方から攻撃にさらされることになります。
このような理由から、実は空堀の方が防御という点から見ると優れモノだったのです。
いかがだったでしょうか。
一見すると強固に見える水堀ですが、侵入する側からはまだ可能性のある堀だったのです。
空堀から侵入しようとすると・・・。
あらゆる角度から敵の攻撃があると考えるだけでぞっとしますよね。
このように、防御性もそうですが、用途によって使い分けられていた水堀と空堀。
同じ城の中でも水堀と空堀が使い分けられたりしている個所もあったりするため、城に訪れたときにはなぜそこが水堀なのか?なぜそこが空堀なのか?といったことを考えながら見てみても面白いでしょうね。