986【映画あれこれ】驚くほどのクオリティを誇る知られざる昭和天皇の姿『太陽』

映画あれこれ(Movie)
この記事は約5分で読めます。

今回はとある映画を紹介したいと思います。
この映画の舞台、そして主人公は日本人です。
しかし、この映画を製作したのは、ロシア・イタリア・フランス・スイス。
なぜ日本のことなのに、海外で製作されるのか。
それは、日本国内ではある種のタブーとされている内容であるからなのです。
その人物とは、天皇です。
天皇の中でも、歴代最長の在位期間だった昭和天皇を取り扱っているからなのです。

この映画は全編を通して、一人の人間昭和天皇の終戦前後の苦悩、そして日常生活がリアルに展開されます。
この映画で主演を演じたのは、イッセー尾形氏
その演技のリアルさが話題となり、海外ではかなり話題となった映画なのです。
日本ではここまでのリアルを追求できなかった天皇像。
しかし、海外の国だからこそここまでリアルに映画化することができたのではないかと思います。

今回はこの2006年に日本で公開された映画、太陽について紹介していきたいと思います。

というわけで、今回のわきみちは、

【今回のわきみち】
  • 誰もが知っているけれど、誰もが知らない昭和天皇。その実際にするどく迫った映画 太陽とはどんな映画だったのでしょうか。

映画に関する記事です。

1055【映画あれこれ】北方領土の実話をもとにしたアニメ映画『ジョバンニの島』
かつて色丹島に住んでいた島民の方の証言を基に、ソ連軍が色丹島へ侵略してきた前後の様子を映画化したものがあるのです。その映画とは、アニメ映画『ジョバンニの島』といいます。映画の中ではとある色丹島に住む兄弟を中心として話が進められていきます。このアニメ映画は銀河鉄道の夜をモチーフとしつつも、色丹島を舞台にした歴史的な史実を表現した映画なのです。
965【映画あれこれ】あふれだすリアリティ…。これが現実とならないことを祈る…『エンド・オブ・ザ・ワールド』
今回紹介しているのはとある映画なのですが、核戦争によって世界が死滅していく状況を表した映画としては、かなり古い部類に入る映画です。元々は、1959年に映画が発表された『渚にて』という映画なのですが、それが2001年にリメイクされ『エンド・オブ・ザ・ワールド』として再度映画として公開されたものなのです。
923【映画あれこれ】ローマ法王にかかる重圧。そしてそこにある苦悩を描いた『ローマ法王の休日』
ローマ法王になるということはどういうことなのでしょうか。そんな世界中の人々が知っているけれど、実際にどうやってその立場になるのか。どんな生活をしているのか。そんなローマ法王の事実をコメディ映画として取り扱っているのが映画『ローマ法王の休日』です。
902【映画あれこれ】原爆投下からわずか8年。この出来事を風化させまいとした人々によって作られた映画『ひろしま』
原子爆弾を取り上げた作品の中でも、原爆の悲劇からわずか8年後という時代に、実際に広島での原子爆弾の様子を目の当たりにした多くの一般のエキストラの人々が参加した映画があります。その映画を『ひろしま』といいます。
881【映画あれこれ】インドネシアを震撼させた大虐殺事件を取りあげた映画『アクトオブキリング』
インドネシアは世界でも最大のイスラム教徒人口を誇る国です。それ以外の宗教の人たちには暮らしにくそう・・・。と思ってしまうかもしれませんが、インドネシア国内には、キリスト教の人も、ヒンドゥー教の人も、仏教の人もいます。そして、国の祝日にはそれらのイスラム教徒は違う宗教の特別な日も、国家の祝日として制定されるほどなのです。厳格なイスラム国家とは少し雰囲気が違いますよね。
860【映画あれこれ】インドのムンバイ同時多発テロを取り扱った映画『ホテルムンバイ』
た世界を震撼させた事件は、映画化され後世に語り継がれていく場合があるのです。今回紹介している映画もとあるテロ事件を紹介したものです。その映画とは、ホテルムンバイといい、2008年に起きたインドのムンバイ同時多発テロを取り扱った映画なのです。
839【映画あれこれ】実際の事件を取り上げたドキュメンタリー映画。まさか現代にこのようなことが…『奴隷の島、消えた人々』
今回紹介している映画は、『奴隷の島、消えた人々』。ドキッとしませんか、このタイトル。"奴隷"という言葉が印象的なこの映画のタイトル。いかに古い時代の話なのかなと思いきや、その詳細を見てみると、意外や意外。この映画は実際に2014年に発覚した韓国でのとある事件を取り扱った映画なのです。
818【映画あれこれ】もはや説明の必要のないほどの名作映画。映画と旅とがつながったのはここからかもしれない『ローマの休日』
今回紹介している映画は、日本では1954年に公開されたこの映画ですが、この映画を見て、映画の中で出てきた様々な舞台を巡りに行く!という行動に出た人々も多かったと聞きます。その映画の名前を『ローマの休日』といいます。
797【映画あれこれ】かの有名なこの人物を、一人の少女として新たな角度から映画化した『マリー・アントワネット』
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない。」このセリフを聞いたことがあるのではないでしょうか。誰のセリフだったかなあ、と思い返してみると、歴史上のとある悪女が浮かんでくる緒ではないかと思います。その人物こそが、フランス国王ルイ16世の王妃だったマリー・アントワネットです。
755【映画あれこれ】1950年代のサイゴンが舞台。10歳で奉公に出た少女の成長と人々との交流を描いた作品『青いパパイヤの香り』
今回紹介しているのは、ベトナムの大都市であるホーチミンシティがまだサイゴンと呼ばれていた1950年代のベトナムを取り扱った映画です。その映画の名前は、『青いパパイヤの香り』といいます。
734【映画あれこれ】ベトナムの古い慣習を映像化。しかし、その映像化は問題となり・・・『第三夫人と髪飾り』
ベトナムで作られた『第三夫人と髪飾り』という映画。この映画の舞台は19世紀のベトナム。一夫多妻制が残り、男児を生み育てることが女性の務めとされていた古き慣習の残る時代。その時代に翻弄される14歳の少女が主人公の映画です。
713【映画あれこれ】暗黒の時代を実際に体験した人物が演じるリアリティ『キリングフィールド』
今回紹介しているキリング・フィールドという映画は、地獄のような日々に突き進んでいっていた、当時のカンボジアの状況を表している映画なのです。その映像は非常にリアリティにあふれているのですが、そこまでのリアリティがなぜ表現できたのかというと、この映画の助演の男性が、実際にクメール・ルージュ下のカンボジアを生き抜いた人なのです。
573【映画あれこれ】同じ民族が引き裂かれた悲劇の戦争、朝鮮戦争。ある兄弟の姿を通して戦争の現実を物語る『ブラザーフッド』
映画『ブラザーフッド』は、朝鮮戦争に翻弄されたある兄弟を取り扱った映画なのですが、ストーリーとしてはフィクションであり、実際には起こりえないだろうという点もあったりするため、賛否分かれる映画です。ただ、戦争が同じ民族、家族、恋人たちを引き裂き、多くの人々の心の中に傷を残した戦争の雰囲気は十分に伝えてくれる作品だと思います。
555【映画あれこれ】ベトナム戦争時、アメリカはこの国の中でどのような立場だったのか『グッドモーニング、ベトナム』
ベトナム戦争真っただ中のサイゴン(現在のホーチミンシティ)でアメリカ兵のためにラジオ放送を行っていたある空軍兵且つラジオDJの視点から見たベトナムを描いた作品『グッドモーニング、ベトナム』です。このストーリーは実在の人物の体験に基づいて描かれており、ベトナム戦争のまた違った一面を見ることができる映画なのです。
537【映画あれこれ】ポル・ポト政権下のカンボジアでの実話。この国を襲った歴史の一端が見える『地雷を踏んだらサヨウナラ』
ポル・ポト率いるクメール・ルージュによって激しい内戦状態に陥っていた1970年代のカンボジア。そのような状況下にあったカンボジアに単身乗り込み、カンボジアの実情を伝え続けたのが一ノ瀬泰造氏なのです。そんな一ノ瀬泰造氏の半生を映画化したものが、今回紹介している、『地雷を踏んだらサヨウナラ』です。
522【映画あれこれ】今の時代ではありえないかもしれないが、人が自分の力で生きるためにはありだったのか『フリークス』
今回ふと目に留まったとある白黒映画。その映画なのですが、邦題では『怪物園』、原題では『フリークス』といい、サムネイル画像には下半身がなく、手だけで体を支える人物の画像が。あまりにも強烈なその画像が気になり、この映画を閲覧してみましたが・・・
507【映画あれこれ】イギリス統治時代のインドが舞台。この時代の女性のおかれた立場がよくわかる伝説的な女優『マドビ・ムカージ』
オンデマンドビデオサービスの中では、これまでに全く知らなかったような動画も目に入ります。たくさんのサムネイルを見ていると、その中には目に留まるものもあったりするのです。オンデマンドビデオサービスで目に留まったある映画作品と、そこから知ったとあるインド人女優であるマドビ・ムカージについて書いていきたいと思います。

映画『太陽』

映画『太陽』は、2005年にロシア・イタリア・フランス・スイスによって作られた映画です。
日本で公開されたのはその翌年の2006年のことでした。
海外勢が製作しているということなので、どういった内容なのかと思うかもしれませんが、この映画は日本のとある人物を取りあげた映画なのです。
なぜ日本のことなのに、海外によって映画化されたのか。
それは、日本国内であれば取り扱いにくいテーマだからなのです。
日本国内にあって、日本人が取り扱いにくいテーマをもった人物。
その人物とは、天皇です。

天皇は天皇でも、この映画の主人公は、歴代最長の在位期間を誇る昭和天皇です。
私たちが知っている昭和天皇というと、戦前・戦中と現人神として存在した軍服姿の天皇の姿が一つ。
戦後に、日本各地を巡業して、慰問に訪れた穏やかな表情をした天皇の姿。
おそらくこのどちらかがイメージされるのではないかと思います。
しかし、そんな昭和天皇の終戦前後の苦悩や、普段のプライベートとなるとどうでしょうか?
ぱっとイメージはなかなかできないのではないかと思います。
しかし、いろいろと伝え聞いたことがある天皇像がつながった先にこの映画があるのです。

主演を演じているのはイッセー尾形氏
一人芝居の第一人者ともいわれる同氏が演じる昭和天皇は、その姿が本物ではないかと錯覚させられるほどのクオリティを誇っているのです。

映画が始まるのは、第二次世界大戦の終戦直前のことです。
皇居地下の防空壕で生活をする昭和天皇。
ラジオから流れてくるのは、日本が直面している絶望的な戦局。
しかし、そのような中でも昭和天皇の日常は変わりません。
閣僚や首相たちとの会見。
海洋動物の研究。
決まった時間の食事。
ここだけみるといま日本が戦争の真っただ中にいるとは感じられません。
しかし、この場所にもアメリカ軍が襲ってくる可能性はゼロではないのです。

そんな淡々と過ぎていく日常をこなしていた中で、日本は敗戦を迎えます。
占領軍の司令部に迎え入れられ、連合国占領軍総司令官のマッカーサーと会談します。
その席で終戦についての思いを語る昭和天皇。
天皇の処分はまだ決まっていない。
現人神として称えられている天皇をないがしろにしてしまっては、その後の占領政策にも大きく影響してくる。
天皇の決断一つに日本の未来が委ねられているといっても過言ではなかったのです。
そんな天皇が決断したことは、国の未来のために自分の神格を返上するということ。
これがかの有名な人間宣言なのです。
しかし、天皇自身の人間宣言を録音した技師は自決をします。
物語の最後には、ただただラジオの音がかすかにきこえるのでした。

この映画では決して昭和天皇自身が感情を大きくあらわにするような場面はありません。
しかし、全編を通して昭和天皇の苦悩や決断、そして悲しみなどを感じ取ることができるのは、イッセー尾形氏のもはや憑依したかの如くの演技のたまものではないかと思います。

いかがだったでしょうか。
日本ではこのように一人の人物として天皇を取り扱うということはできないでしょう。
海外の客観的な目線だからこそこの映画は製作することができたのです。
日本での航海すら危ぶまれていたこの映画でしたが、驚くほどの人々が映画館へとやってきたのだそうです。
日本人誰もが知っている人物だけど、誰もが知らない人物。
一人の人間昭和天皇の等身大の姿をスクリーンを通して感じ取ることができる。
非常に貴重な映画の一つなのではないかと思います。